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日本酒好きがきっかけでライターに転身した橋村望さん。好きならではのお酒の知識を武器にして、クライアントの意向を汲みながら、読者に必要な情報を伝えることを得意としています。

そこで今回は、お酒について書くライターならではの心がけと、表現をするときに必要なスキルについて詳しく伺いました。

【プロフィール:橋村望】
デザイン事務所に約7 年勤務。広告、雑誌、企業SP ツールなどを中心に、デザイン制作業務に携わる。2008 年 フリーランスのデザイナーとして独立。その後、2014 年 に編集・ライター養成講座を受講したことをきっかけに、ライティング業を開始。「唎酒師」「焼酎唎酒師」や「酒匠」の資格を持ち、お酒や酒造りにかかわる人への取材を精力的に行っている。

デザイナーからライターへ転身した理由は「書くことの面白さに気づいたから」

―もともとはデザイナーとして、独立されていたとうかがいました。なぜ、ライターになろうと思われたのでしょうか?

お酒のことをもっと知るために唎酒師の資格をとったことがきっかけです。編集の仕事をしていた友人から、利酒師なら書けるだろうと、運営するWebサイトへの日本酒の記事執筆の依頼を受け、その経験から書くことに興味が湧きました。

当時、デザイナーとしてWEBコンテンツや企業のホームページを作る仕事をしていたので、お酒をテーマにしたWEBサイトを作るのもおもしろそうだなと思い、ライターの基礎を学ぶため宣伝会議の「編集・ライター養成講座」に通いはじめました。

―なるほど。当初は文章を書けるデザイナーとして、ライティングの技術を身につけようとされていたのですね。

はい。けれども実際に書いていくうちに、ライターとして書いていくことの面白さに気がついてしまって。編集・ライター養成講座の上級コースである『米光講座』に通ったり、編集さんに原稿の赤入れをしてもらった経験も大きかったですね。発信をするならちゃんと伝わるものを書かないと意味がないし、自分には全然力が足りていないことを痛感したんです。

正しい情報を持つからこそ、得られる信用がある

 

―橋村さんは、お酒について書くことを専門にされているそうですね。いろいろな資格もお持ちだとか。

唎酒師、焼酎唎酒師、酒匠の資格を持っています。唎酒師や焼酎利酒師は、日本酒や焼酎の造りや歴史といった基本的な情報や香りや味わいを一定の基準で評価することを学びます。

酒匠は、お酒のテイスティングに特化したもので、日本酒と焼酎の製造工程や原料の違いなどによって味わいがどう変化するかなど、一般の消費者に分かりやすく伝えることを目的としています。

ただし資格を取ることはきっかけにすぎず、取った後どう磨いていくかのほうが大切です。いろんな日本酒を実際に飲んでテイスティングノートを作ったり、新しい造りのお酒を試してみたり、蔵へ足を運んでみたり。好きだからこそ続けていることが、蔵元やお酒を扱う飲食店などへ取材に行ったときに役立つことが多いです。

―最近では、どんな内容のお仕事を中心に活動されているのですか?

お酒についてだけではなく、お酒を作っている蔵元や提供しているお店、販売店の取材をして記事を書いています。また、オウンドメディアなどのコンテンツや、広告記事にも携わっています。

―お酒に関する情報はどのように集められているのでしょうか?

インターネットやSNS、お酒好きのコミュニティ、試飲会やイベントに参加したり、蔵に足を運んだりしています。鑑評会やコンペティションがあれば、その結果にも目を通すようにしています。でも一番の情報源は、「自分で飲むこと」かもしれませんね(笑)。かなり締切りに追われている時以外は、だいたい毎日飲んでいます。自宅には日本酒専用の冷蔵庫もあるんですよ。

 

―お酒など香りでも味わうものに関しては、個人によって感じ方が変わるので表現が難しいように感じます。そのあたりで気をつけていることはありますか?

そうですね。香りや味に対するイメージは人によって違うので、想像がつくような具体的な言葉に置き換えて伝えるようにしています。「りんごのような爽やかな酸味」とか「完熟マンゴーみたいな甘み」などですね。

味わいや香りの伝え方については、ワインのテイスティングの本が役立ちました。ワインと日本酒の味わいは本来比べられないないものですが、最近はワインに例えられるような日本酒も多いし、香りを表現する際にヒントにもなると思います。ワインソムリエの田崎真也さんの著書も参考になりました。

時代とともに変化するお酒事情を伝えられるライターでありたい

―最近されたもので、面白かった取材はどんな内容でしたか?

最近オープンした、熟成古酒専門のお店の取材がとても面白かったです。熟成酒というと一般には、紹興酒をイメージする味わいが多いように感じていましたが、ワインのような酸味のものやお醤油のような味、蜜のように甘いもの、10年以上たってひたすらまろやかになった吟醸酒など、いろんなタイプの日本酒が揃っていました。

すべてのお酒が試飲できるのも魅力で、取材を忘れて飲み過ぎてしまうほど楽しかったです。酒販店や個人でもお酒を寝かせて、好みの味に育てるという楽しみ方も興味深いなと思いました。

―熟成古酒は奥深そうな世界ですね。では反対に日本酒にあまり接していない人に、オススメできるお酒はありますか?

近年ラインアップが増えてきた、低アルコールの日本酒がオススメです。通常の日本酒のアルコール度数は15〜16度くらいですが、低アルコールのものは14〜15度くらい。これからの季節に出回る”夏酒”と書かれたお酒は、低アルコール酒が中心です。ふだん日本酒になじみのない人や、日本酒のアルコール感が苦手という人でも飲みやすいと思います。

以前、20〜30代女性を集めて座談会を行なったとき、ふだん日本酒を飲みなれていない人にも「飲みやすい!」と人気だったのが、”生酒”の類でした。生酒特有の高い香りやフレッシュな味わいが、飲みやすさの理由かもしれません。濃厚な味わいのため、ロックやソーダ割りでも美味しくいただけます。ライムを絞ってカクテルにするなど、自由な飲み方で楽しむことができますよ。

 

今後は、海外のお酒事情を伝える役割も担っていきたい

―原稿を書くうえで、とくに気をつけていることはありますか?

書く媒体のカラーや読者層を把握して、求められている内容をしっかり確認してから書きはじめるようにしています。通と呼ばれるような人と、これから日本酒に触れていく人では知りたい情報が違うはずです。

媒体によって読ませたいターゲットが異なるので、その読者層に向けた内容になるように気をつけています。ただ、そうはいっても取材先で聞いた面白い話を削るのは、自分もお酒が大好きだからこそ辛い作業ですね。

―最後に、今後の目標について教えてください。

今後はお酒に関わっている、普段はなかなか光のあたりにくい人たちを取材していけたらと考えています。また、海外でも日本酒は人気なので、海外の蔵や流通、教育に関わっている人の取材もしてみたいです。

それと、5年後くらいまでに叶えたい目標は酒販店を開くこと。ライターをしながら、より深くお酒の世界に関わっていけたら嬉しいです。

ライターにオススメしたい書籍

『文章心得帖』鶴見俊輔
「紋切り型」「手垢のついた表現」ともよばれる、ライターが避けるべき表現を知るための一冊。講義形式で生徒の書いた文章を先生が講評しながら進む形式のため、自分の目線に置きかえて学ぶことができます。
『言葉にして伝える技術――ソムリエの表現力』田崎真也
ソムリエである田崎さんが、ワインの風味をどのようなものに例えて伝えるのかや、伝えるためのアプローチ方法についてもまとめられています。飲食について書く人だけでなく、表現力を鍛えたい場合にもオススメの本です。
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小松田久美

建築会社秘書、ベンチャーIT企業勤務を経て、宣伝主催の「編集・ライター養成講座」を受講。卒業制作で優秀賞を受賞したことをきっかけに、フリーランスライターに転向。現在は医療系分野での執筆や人物インタビューの他、書籍のブックライターとして月に1冊のペースで執筆中。