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フリーアナウンサーとしてテレビやラジオ番組に出演する一方、ライターとしても活動し、“喋って書ける伝え手”として活躍する丸井汐里さん。

今回は、2足のわらじを履いてさまざまな情報を発信する丸井さんに、インタビューのコツや伝え手としての心構えなどを伺いました。

東日本大震災の被災地でスタートしたアナウンサー人生

――丸井さんは現在ライターとしても活動されていますが、もともとはアナウンサーとしてキャリアをスタートしたんですよね。

大学卒業後にNHK地方局のキャスターになってから今日まで、所属こそ変わりましたが、ずっとアナウンサーとして活動しています。

アナウンサーになろうと思ったのは、自分の目で見たものを自分の言葉で伝えたいと思ったから。喋り手として、たくさんの方に情報を発信してみたいと思いました。

――アナウンサーのキャリアのスタートは、大波乱だったとか……。

NHKの福島放送局で働くことになっていたのですが、そんな折に東日本大震災が起こって。12日に福島へ転居する予定でしたから、まさに直前のことだったんですね。

みなさんご存知のとおり福島には原子力発電所があり、当時は放射線の影響も懸念されましたから、家族には「就職は諦めなさい」と言われました。でも私は、ここでキャスターの仕事を諦めたら、アナウンサーの仕事はもうできないだろうと思って……。周囲の反対を押し切って、福島に行くことにしました。

被災地は大混乱ですから、新人研修なんていう丁寧なサポートはありません。入社したその日から先輩たちの姿を見よう見まねで走り回り、給水所や稼働しているATMなどのライフライン情報を調べて報告し続けました。

――新卒社員なのに入社初日から即戦力として扱われるとは、“超”がつくほどの過酷さですね。

しかも、応援人員として全国各局からスタッフが集まっていましたから、私が新人だと知らない方もたくさんいたんですね。もたもたしていると、叱られてしまうことも多くて(苦笑)。そうして入社5日目には避難所へロケに行き、7日目には1日に何本も放送するラジオのレポートを作成し……異例のスピードで経験を積んでいきました。

過酷な経験のなかで生まれた“伝え手”としての責任感と夢

――当時のことを今振り返って、いかがですか?

福島放送局で過ごした2年間、特に入社直後の数カ月は、“情報を伝える者”としての原点になっていると思います。被災したみなさんやそのご家族がどんな情報を必要としているのか、毎日真剣に考え続けました。あとは、情報を発信することや言葉を選びとることに対する責任感も芽生えましたね。極限の状態にある視聴者の方々に、正しい情報を早く、不快感を与えない言葉で届けなければなりませんから。

――そうした学びはライター業にも活きそうですね。

そうですね。ライターとして情報を発信する際にも、受け手が求めるものは何かを考えること、正しい情報、自分が納得できる情報を適切な言葉で伝えることはいつも大切にしています。

――どうしてライターとしても活動しようと思ったんですか?

最初にお話しした、“自分の言葉で伝える”の幅を広げたいと思ったからです。

実はアナウンサーの仕事って、話すことだけじゃないんですよ。現場に取材に行って、自身で原稿を書くこともあるんです。私はこれまで多くの原稿を書いてきて、それが自分の強みだと自負していたので、書くことにもチャレンジしたいなと思うようになりました。

アナウンサー&ライターとして活動する丸井汐里さんに学ぶ “伝え手”としての心構えとインタビューのコツ

インタビュー成功のカギは“事前の準備”にあり

――アナウンサー業で培ったスキルで、ライターの仕事に活きていることはありますか?

事前調査を徹底的にやるというのは習慣になっていますね。例えば、キャスターとして1分間の枠を担当するときって、最低でも1〜2時間は調査に費やすんです。伝える対象についてきちんと理解するのもそうですが、当日急に尺が長くなることもざらにあるので、しっかり備えておかなくてはなりませんから。

そうやって十分な事前調査をしておくと、深い情報を引き出せるのはもちろん、現場で焦ることがなくなるんですよね。どうしても時間をつくれなくて、調べた情報をすべて頭に入れられない場合は、現場に資料を持ち込むこともあります。それだけでも安心感が違いますよ。

――事前調査以外には、何かありますか?

あとはインタビューの時間配分、質問一つひとつに使う時間までを細かく決めておくことですね。ちょっと伝わりづらいかもしれないですけど、テレビの放送にのせるような感覚でイメージするんです。インタビュー中の映像も放送されると想像して、最初から最後までの流れを、できるだけ綿密に考えておきます。

もちろん、どこかの質問で話が膨らんで予定より長く話してしまったり、話が逸れてしまったり、想定どおりにいかないことも多々あります。でも、全体の流れをしっかりイメージしておけば、その後の調整をしやすい。削る質問もすぐに決められるし、話を本筋に戻すコントロールもしやすくなります。

――インタビュー時の会話のやりとりで気をつけていることはありますか?

相手の感情や性格に合わせた対応ができるようになる、というのは永遠のテーマだと思っていますね。話しやすいと感じるペースや雰囲気は人によって違いますから、なるべく早い段階で相手の好みをつかめるように心がけています。

あとは、テーマによってもある程度対応を変える必要があるかなと思います。私の経験から具体例を挙げると、原爆や震災など特殊な体験をされた方の話を聞いたときなどがそうですね。普通のインタビューでは舵取りするところも、できるだけインタビュイーの好きなように話してもらい、じっくりと話に耳を傾けるようにしています。辛い記憶を思い出すにはその方ならではのやり方があるでしょうし、単なる体験談ではなくて“貴重な証言”だと思うので、こちらがコントロールしすぎるのは違うかなと……。もちろん、時間などの制約もあるでしょうから、あくまで“できる範囲で”ですが。

喋って、書いて……“おもしろいもの”をつくりたい

――丸井さんの今後の展望を教えてください。

ライターとしてはまだまだ駆け出しなので、まずは経験値をもっと積みたいと思っています。今はジャンルも限定せず、自分の幅を広げていきたいですね。そのなかで、自分が時間をかけて取り組みたいテーマを見つけたいなと。あとは、ライター業での学びをアナウンサー業にも活かして、“伝え手・丸井汐里”としてスキルアップしたいです!

アナウンサー&ライターとして活動する丸井汐里さんに学ぶ “伝え手”としての心構えとインタビューのコツ

――“喋れて、書ける”は、他の方にはなかなか真似できない丸井さんの強みですよね。

アナウンサーとしてのキャリアはそれなりにあって、もちろん自分の武器だとは思っているんですが、実は話すことが天職とまでは思っていないんです。上を見たらすごい先輩方はたくさんいて、キリがないですから……。もちろん、まだ始めてから日の浅いライター業も同じです。

でも、おもしろいものをつくりたいという気持ちは負けません!これだけ情報があふれている今、大切なのはどう見せるか。単に情報をそのまま提示するだけでは、受けての心に引っかかりませんからね。どうやって視聴者を惹きつけるかは、これまでずっと私が考えてきたこと。「あのリポートがわかりやすかった」と言ってもらえたように、たくさんの方々に“最後まで読まれる記事”を書いていきたいです!

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中島香菜

神奈川県出身。早稲田大学教育学部卒業。営業職や事務職などを経験し、かねてより関心のあったライターに転身。企業専属のライターとして歯科求人広告などのライティングを1年ほど経験したのちに、フリーランスライターとなる。取材や編集にも対応可能。強みである歯科を中心に、ジャンルを問わず活動中。 実績紹介ページ