地方を渡り歩いたライター・大矢幸世さんから学ぶ“その場を楽しむ”インタビュー技術

家族の転勤で日本全国の様々な場所に拠点を移し、各地でライターとして活動してきた大矢幸世さん。拠点が変わってもライターとして活躍する秘訣や、得意とするインタビューで大切にしていることなどを伺いました。

【ライター大矢幸世】
プロフィール:2011年からフリーライターとして活動。鹿児島、福井、石川など地方を中心に取材・執筆を行う。2014年末から拠点を東京に移し、ビジネス、カルチャー、ローカル、グルメなどジャンルを問わず、ウェブや雑誌、企業誌などで執筆・編集を行う。ポートフォリオ(Google+ページ)

転勤族だから選んだフリーライターという働き方

―大学卒業後は、百貨店に勤められていたそうですね。どのようにライターに転身されたのでしょうか?

もともと就職活動の時からマスコミを志望していたんです。カルチャー誌『SWITCH』など雑誌が好きで、大学では企画系サークルでフリーペーパーを作っていたので、漠然とマスコミ業界に憧れがありました。

ただ、当時は具体的に何がしたいのかまでは落とし込めておらず、唯一内定をもらった百貨店に入社しました。百貨店ではレディスウェアの販売やMDなどの業務に携わっていましたが、双子の妹が新聞社で記者として活躍していたことに刺激を受けて、4年目の時に転職することを決めました。

その後、地元・福岡の会社でフリーペーパーの制作をすることになりました。まったくの未経験でしたが、広告営業から編集、ライティングまで一通り任せてもらえたので、着実に経験を積むことができました。クライアントのニーズを伺いながらタイアップ記事を作ったり、地元企業や新聞社とコラボしたり……失敗もたくさんありましたけど、本当にいい経験をさせてもらいました。

―ライターとして独立したのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?

夫は転勤族で、当時鹿児島にいたのですが、そろそろ一緒に暮らせたらいいなぁと思っていたんです。その矢先、妹から鹿児島での仕事を紹介してもらいました。鹿児島のカフェを取材する書籍の企画で、事前調査から取材、執筆、撮影までひとりで手がけるもの。

丸一冊書くには自信も経験も足りないと思いましたが、出版社の社長さんにも「大丈夫、書けるわよ」と背中を押してもらって。ライターになれば全国どこに行っても働けるのではないかと、思いきって独立することにしました。本を出版したことで、地元メディアに取り上げられたり、本屋さんの週間ベストセラーにランクインしたり、思わぬ反響もありました。

また、友人づてに鹿児島の制作会社を紹介してもらい、地元企業の社史編纂にも携わりました。若手社員からその道一筋数十年のベテランまで約80名から話を伺い、それぞれの仕事と向き合いました。カフェ本でも50店舗の店主や店長さんからじっくりと話を伺いましたし、駆け出しのライターとしては非常に濃密な経験をさせてもらったと思います。

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―その後、福井へ転居されていますね。

夫の転勤先が、たまたま福井だった、ということですね(笑)。もちろん、まったく出版関係のつながりはなかったので、地元タウン誌の出版社へ行き、営業をかけました。その時には鹿児島での実績がポートフォリオ代わりになりました。

また、福井だけでなく隣県の石川でも仕事ができるように、金沢の出版社にも営業をかけました。そこではタウン誌だけでなく、県の音楽文化振興事業団の広報誌に携わりました。一つひとつの仕事を真摯にこなしていくことで、出版社内で私の情報が共有されて、ほかの編集さんからも依頼されるようになりました。

2014年11月からは夫の転職に伴い、東京に拠点を移しました。「転勤族の妻」を卒業して、腰を落ち着けて活動することになったわけです。東京には最初、福井の出版社の東京支社しか取引先がありませんでしたが、編集者やライターが集まるイベントなどに積極的に参加したことをきっかけに、お仕事の相談をいただくようになりました。そこでのご縁で、今はフリーの活動と並行して編集プロダクションと業務提携を結び、仕事を手伝わせてもらっています。

縁もゆかりもない土地で活動する上で、FacebookやTwitterなどSNSは情報収集にもコミュニティ作りにも非常に役立ちました。それぞれの場所で過ごしたのはほんの2、3年ほどですが、気の合う友人や仲間にも出会えましたし、仕事につながることもありました。一人ひとりとの縁が、今の私を作り上げていると感じています。

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インタビューは会話を楽しむことを大切に

―様々な記事を執筆されていますが、中でもインタビューが得意だそうですね。

インタビューは独学なんですけど、得意分野の一つにできたのは、百貨店に勤務していた頃の接客経験が活きているからだと感じています。

私が勤めていた店舗は地域密着型のアットホームな雰囲気で、様々な年代のお客様とお話をする機会がありました。それぞれの興味関心も様々ですから、そこで鍛えられたのかもしれません。

―インタビューで気を付けていることは何でしょうか?

取材を会話として純粋に楽しむことです。最近は女優さんやタレントさんなど著名人を取材する機会も増えているのですが、知名度のある方だからといって対応を変えることはありません。自分も相手も「楽しかったな」と思える時間にすることを心がけています。

また、相手により話していただくために、相手に合わせて口調を変えることもあります。ゆっくり話す方に一方的にまくしたてたり、沈黙を遮ったり、相手の話すペースを乱すようなことはしないようにしています。

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―事前準備で得た情報は現場でどのように活かしていますか?

事前準備はもちろんするのですが、準備で得た情報は知識として頭に留めておき、取材中に「この人はこうだ」という先入観を持たないようにしています。先入観に捉われてしまうと質問の領域も狭まってしまいますし、取材がただのQ&Aの応酬になってしまいます。

事前準備をして、想定質問も用意していたとしても、結論ありきで話をしないようにしていますね。まっさらな気持ちで会話し、その中で生じた新たな疑問を率直にぶつけるなど、臨機応変なやり取りを大切にしています。

―会話を楽しむには和やかな雰囲気を作る必要があると思いますが、どのようにアイスブレイクしているのでしょうか?

何かしら相手との共通項を見つけることです。まず自分が何者か自己紹介をして、相手と共有できるような話題を探します。私は父と夫の転勤などで全国各地に行ったことがあるので、出身地の話題などは特に盛り上がることが多いです。ただ現場に行って、名刺交換して……という感じで始めてしまうと流れ作業のようで味気なくなってしまうので、こういう時間は大事にしたいですね。

―原稿を書く上で、意識していることを教えて下さい。

取材相手の口調や語感をなるべく残すようにしています。わかりやすくなるよう言い換えることはありますが、「この人はこういう言い方しないだろうな」という語尾や言い回しなどは使わないようにして、相手のキャラクターが伝わるようにしていますね。

また、インターネットの記事では特に意識しているのですが、誰かを傷付けたり煽ったりしないようにすることです。読んだ人が読後に1ミリでも良い方向を向けるように、ネガティブな着地点にしないことを心がけています。

―インタビューが重なるとテープ起こしが大変ではないですか?

テープ起こしは大変ですが、地道にやるしかないですね。ただ、1000文字くらいの原稿なら記憶とメモだけで書くことも多いです。話を聞いていて頭に残っていないことはそんなに重要ではなかったんだと思い、短めの原稿なら文字起こしせずに原稿に取りかかることもありますよ。

幅広い知識を深めて、求められるライターを目指す

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―仕事をする上でのポリシーは何でしょうか?

関心がある分野であれば、その分野に詳しくなくてもどんどん仕事を受けるようにしていることです。取材でお話を聞くことで知見を得ることができて、関連するテーマの取材にも活かせるようになるんです。

例えば私は今、ビジネス系の取材が多いのですが、もともとビジネス系には詳しくありませんでした。でも、取材対象者やその人がやっていることに関心があり、話を聞くごとにその分野の知識が増えて、より深い質問ができるようになっていくんです。

私は知らないことを知っておきたい、という知的好奇心を強く持っています。取材で様々な方とお会いして知識を増やせるところに、この仕事の楽しさを感じていますね。色々なジャンルに手を出すと専門性が高まりづらくなりそうで、悩ましいところなのですが(笑)。

―最後に、大矢さんの今後の目標を教えてください。

これからもライターを仕事として続けていくために、「この人にお願いしたい」と思ってもらうことです。私は正直、自分の名前を売って、自分の想いをどんどん表現していきたいタイプのライターではないんです。

インタビュイーの真意を引き出し、編集者の求めるもの、時代の求めるものにも応じながら、最適な記事に仕上げられる、“求められる”ライターになっていきたいですね。

ライターにオススメしたい書籍

『新しい文章力の教室』唐木元
コミックナタリー元編集長の唐木元さんによる書き方の本。「読まれる文章」を書くにはどうすればいいのか。クセのないフラットな文章術を学ぶには最適なテキストです。「ただ、なんとなく」で文章を書き進められる人が、改めて立ち返ってみるのにもいいかと。
『東京の編集』菅付雅信
編集者の菅付雅信さんによる“名編集者”たちのインタビュー集。見城徹さん、淀川美代子さん、後藤繁雄さん、岡本仁さん、川勝正幸さん……といった錚々たる顔ぶれも然ることながら、そのエピソードはもはや編集論でなく「生き様」というべきか。

撮影協力:BOOK LAB TOKYO
撮影:@miya___miya