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業界紙での記者経験から、専門色の強い取材実績を多数重ねてきたライターの稲垣有紀さん。会社員もフリーランスも経験し、ライター歴20年以上になるベテランです。稲垣さんがそのキャリアの中で辿り着いた、取材における情報収集の大切さについてお話を伺いました。

【ライター稲垣有紀】
プロフィール:新聞社で業界紙記者を経験した後、フリーライター、IT企業勤務などを経て再びフリーライターに。通販をはじめとするビジネス系、ワインなどのグルメ系を得意とする。現在、最も関心を寄せているジャンルはAI(人工知能)や社会派もの。

長年の経験でメディアの変遷を体感

―20年以上ライターのご経験があるそうですね。これまでのご経歴を教えてください。

大学卒業後、文字に関わる仕事がしたいと思い、新聞社に入社しました。業界紙に配属されて記者になり、美容・健康、フルフィルメントなどの通販関連のジャンルを担当しました。ネットショッピングに関しては、インターネットが普及する以前から取材してきたんです。現場で取材相手の方に業界のことを教えてもらいながら成長してきました。当時は広告営業も兼任していたので、良い取材をしないと広告獲得に結び付かず、情報収集には必死でしたね。

この頃の経験がライターとしての基礎になりました。当時の先輩には何度も原稿の赤入れをしてもらいましたね。シビアな赤字を入れてくれる編集者さんは好きです。その方が成長できますからね。今でも赤字を入れていただいたら、成長機会と捉えてリクエストに応えられるよう頑張っています。

その後、1度フリーライターになりました。書籍を企画・執筆したり、社長インタビューを書いたり、情報誌に携わったりしていました。しかし、第1次ネットバブルの影響を受けて、関わりのあった雑誌が次々と廃刊になってしまい、再び会社員に戻ることになりました。

 

―次はウェブメディアに関わるようになっていったんですよね。

2社目は美容・健康業界のウェブメディアを担当し、記者だけでなく編集長まで就任しました。それまでは紙媒体だけでしたが、初めて関わるウェブメディアではスピード感の違いが衝撃的でしたね。取材してすぐに原稿作成し、アップすることには驚きましたが、同時に楽しくもありました。

―その後は再びフリーライターになられていますが、フリーになってからは、どのようにお仕事を獲得されたのでしょうか?

すべて新規で営業しています。前職の職場には私が穴をあけてしまった分、迷惑をかけてしまっているので、前職の繋がりを頼ることはまったくありません。

1社目を退職し、最初にフリーになった頃は新聞や雑誌に「ライター募集」と掲載されているところに応募したり、「ライター募集していませんか?」と電話したりしましたね。また、企画を持ち込むこともありました。当時は今ほど出版不況ではなかったためそれでも通用しましたが、今では企画があるからといって会ってくれる編集者はほとんどいなくなってしまいました。現在は気になる募集を見つけたら作品見本を見せるなどして、積極的に営業するようにしています。

新聞記者時代に培った取材で話を引き出すテクニック

 

―現在のお仕事内容について教えてください。

業界紙の取材経験などからビジネス、グルメ系の記事に多く携わっていますが、取材ものやインタビューなどであれば分野は問いません。グルメやコスメなどのライトなものから、社会系など堅いテーマまで、幅広くカバーできます。
今は平均して週に5本ほど執筆しています。普段、作業は自宅でしているのですが、早寝早起きする生活を心がけていますね。規則正しい生活を送って、効率良く仕事ができていると感じています。

―ご自身のライティングスキルの強みは何だと思いますか?

原稿を書くスピードは速い方だと思います。会社員の頃は毎日〆切がある仕事をしていましたから。また、早さに加えて質も当然重視しています。この質というのは文章のわかりやすさ。誰が読んでもわかるような文章を書くことです。媒体によっては、よりわかりやすい文章にするために、ターゲット層になりきって書くこともあります。ターゲット層について知るために、インターネットで若者の言葉遣いについて調べることもあるんですよ(笑)。

―インタビューのご経験が豊富とのことですが、なかなか話してくれない人から、話を引き出すテクニックを教えてください。

角度を変えていくつか質問してみる、少し時間を置いてからもう一度質問してみる、などですね。アプローチを変えて、根気良く話し続けることです。それでも難しければ日を改めて、もう一度取材するのも手です。

また、取材中にわからないことがあった時は「勉強不足で申し訳ありませんが、教えていただけますか?」と率直に聞いてしまいます。素直な姿勢が大切です。

十分な情報があればライティングは難しくない

 

―20年以上の取材経験を経て、取材をする上で特に意識していることは何でしょうか?

情報をどれだけ集められるかということです。インタビュイーは、相手(インタビュアー)が業界のことをちゃんと調べていて、よくわかっていると思うと口を開いてくれることがあります。あらかじめ質問項目を考えるために、過去に企業取材があった時などは日経テレコンや帝国データバンクなどで事前に企業情報や過去記事を入念に調べたりしましたね。

以前、ある企業の社長を取材した時、この情報収集に助けられたことがあります。この取材は当日の朝まで詳細情報が何も共有されなかったのですが、前日に同業他社の情報を必死に調べ、業界のことを理解し、質問項目を作っていったところ、なんとか取材は成功しました。

事前にどれだけ取材相手のことを理解できるか、そして現場で事前準備を活かし、どれだけ情報を引き出せるかが大切です。取材がうまくいけば、書くことはそんなに難しくないと考えています。

―最後に、稲垣さんの今後の目標を教えてください。

これからも取材ものの記事を幅広く書いていきたいのですが、中でも社会派的なインタビューにチャレンジしたいですね。先日、LGBTの方にインタビューしたのですが、取材も執筆も凄く楽しかったです。社会派ものなら、例え原稿料が高くなくても是非お受けしたい。そのくらい、書いてみたいという意欲があります。

ライターにオススメしたい著書

『文系でもわかる人工知能ビジネス』EYアドバイザリー
2020年の人工知能のあり方を書いた本です。「文系でもわかる」というタイトルの通り、とてもわかりやすいAIの導入事例が書かれています。人工知能について記事を書きたいと思い、この本を読んで勉強しているところです。
『悪文』岩淵悦太郎
文章の書き方について勉強になる一冊です。新聞や雑誌などの文章が掲載されており、その文章を「こう直すべきだ」という修正内容が書かれています。私は古本で購入しましたが、新版も出ていますので、そちらで読むことをおすすめします。

撮影協力:BOOK LAB TOKYO
撮影:@miya___miya

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五十嵐綾子

(株)宣伝会議主催「編集・ライター養成講座」を受講し、卒業制作で最優秀賞を受賞したことをきっかけに編集・ライティングの道へ。編集プロダクションにて街ネタ、グルメ、エンタメなど幅広いジャンルの情報誌編集を経てフリーライターに。現在は旅行、イベント・展覧会、女性向け記事などを中心に執筆中。大学は史学科を卒業し、各地の歴史・文化などに目がない世界史系歴女。世界遺産検定1級。