
スポーツをはじめ、多彩なジャンルで執筆している佐藤翔一さん。競合の多い人気ジャンルで戦っていくための取材術や、プロとしてライターをやっていく上で常に意識する「ディレクション」についての考え方などを伺いました。
【ライター佐藤翔一】 プロフィール:東京経済大学卒業。地域情報紙の編集記者として4年の経験を積んだ後、広告代理店にて企画営業からコピーライティング、ディレクション業務を約4年経て、自身のライティングオフィスを設立。野球をはじめとするスポーツ、カルチャー、グルメ、ビジネス、雑学などを執筆中。 |
ライター1本で勝負するため、背水の陣でフリーランスに
―小さい頃から文章を書くことが好きだったそうですね。いつから書く仕事を目指していたのでしょうか?
高校生の頃から書く仕事に憧れていました。高校球児だったので、スポーツの感動を伝えたいと思っていましたね。まずはライティング業務ができる会社に入りたいと考え、地域情報紙を発行する出版社に入りました。
編集や取材、ライティングだけでなく、広告営業や特集の企画なども行い、編集・ライティングの基礎はその頃に一通り学びました。中でも、地域のプロ野球選手の卵の方々に取材する企画が印象的でした。数年後にプロ野球選手になった方もいて、とても嬉しかったですね。
―2社目は広告代理店ですが、どのようなきっかけで広告業界へ転身されたのでしょうか?
1社目で仕事の流れは一通り覚えられたので、東京に出てライティング1本で働きたいと考え、広告代理店へ転職しました。コピーライターを志望して入社したのですが、企画営業からコピーライティング、ディレクション業務まで携わることに。この会社では自分で案件を取ってきて自分で回す、一人ひとりが個人事業主のようなスタイルだったため、結果としてとても良い経験になりました。この経験がなければ、恐らく独立していなかったと思います。
―どのような思いで独立されたのでしょうか?
30歳になったことがきっかけです。実は大学生の頃から、30歳までに事務所兼自宅というスタイルで仕事をしたいと考えていたんです。会社に残っても良かったのですが、そうすると会社に甘んじてしまい、ライターとして勝負できない気がして。同い年のライターやコピーライターの方々が本を出版する等どんどん活躍している中、会社に甘えずにライターとしてやっていくために、退路を断つ思いで独立しました。
相手がドキッとするような質問が、インタビューの質を左右する
―現在のお仕事内容を教えてください。
一番多く執筆しているのはWebメディアですが、ほかにもフリーペーパーやホームページの構築など、幅広い業務に携わっています。案件は「フリーライターのよりどころ」や、ご縁あって紹介していただいたり、ライター募集しているものにメールで応募したりするなどして獲得しています。
地域情報紙の編集記者時代に報道写真の研修を受けているので、写真も撮れますよ。構図や露出、ホワイトバランスなども独学で習得しました。被写体から良い顔を引き出すコミュニケーションなども意識しています。
―得意ジャンルはございますか?
基本的には得意ジャンルにこだわらず“雑食”というスタンスですが、敢えて挙げるならスポーツ、ライフスタイルなどが得意ですね。
―高校球児だったとのことで、やはりスポーツでは野球が一番詳しいのでしょうか?
野球は当然得意ですが、野球を題材に書く人はたくさんいます。そこで僕は、ビジネスとスポーツを掛け合わせた企画や、まだ日の目を見ないスポーツや人にフィーチャーした企画を出したりしています。
また、アスリートの方は話すことに苦手意識のある人が多いと感じています。なので、基本的な質問はもちろんするのですが、それだけでなく、相手がドキッとするようなことも聞くようにしています。相手の人となりがわかる、プライベートなことを聞くとか意識していますね。
―そのような“ドキッとする質問”を考えるためには必要なこととは?
世の中の一般的な人が感じる“物差し”を持っておくことです。100人の読者が読んだら90人以上が考えるような、一般的に「この話ってこうだよね」という物差しです。「今話題の相席居酒屋は、世間ではどう受け止められているんだろう?」とか、仕事していない時も常にこういうことは考えていますね(笑)。そうした物差しを持っておくことで、普通の切り口とは異なる質問を思いつくことができるんです。
クライアントを想う原稿料+αの仕事とは
―普段はどんな環境で執筆されていますか?
カフェで作業しています。最近、素敵なカフェを見つけて、そこに毎日のように通っているんですよ。原稿は1000文字30分で書くと決めて、週に3~5本ほど、月に15~20本ほど書いています。
フリーになると人は弱くなってしまいますね。自宅での作業は誘惑が多くて苦手なんです。なので、自分を律するために強制的に行動せざるをえない環境を作ることを意識していますね。例えば午前中にアポを入れるなど。自分以外の人が絡む約束があると、早起きできますからね。フリーライターは夜型になりがちですが、ちゃんと朝起きて午前中に活動した方が良いですよ。
―仕事をする上で、一番気を遣っている点は?
ディレクションをすることです。編集者もライターも校了がゴールだと思っている人が多いと感じていますが、僕はそうは思いません。ただクライアントから言われたことをしていただけではプロとは呼べません。原稿料が3万円なら3万円分の仕事をすることは当然で、そこにプロとして「こう考えるから、こういう方向に持っていくのはどうだろう」と提案すると、クライアントは「この人に頼めば想像以上のものができる」と思っていただけます。
「ディレクションが大切」という考えは、広告代理店時代に培いました。売りたい商品やサービスのターゲット、競合、魅力の頂点を結んだところを探し、一番刺さる施策を打つことがディレクション。この媒体の魅力は何だろう? この媒体を読んだら得られるものは何だろう? この媒体を読んでいる人はどんな人だろう? どんな年齢層だろう? この媒体はどんな人生を歩んできた人が一番見るんだろう? など考えていくんです。
こうした考えがあるため、僕は仕事するのなら企画からクライアントと一緒にやりたいです。自分が関わった会社や人が、競合媒体と変わらない残念な媒体の一端を担ってしまうのは避けたい。一緒になって良いものを作っていきたいと思うんです。
―では、最後に佐藤さんの今後の目標を教えてください。
ビジネス書を出したいと思っています。特に、社会人になってからの社内コミュニケーション術など、コミュニケーションのビジネス書を出版することが目標なんです。大学がコミュニケーション学部だったことや、社会人経験を積むうちに色々な人と付き合って来た経験があり、コミュニケーション力には自信があります。
実は昔「10年愛されるベストセラー作家養成コース」、通称「10年愛」という作家養成セミナーに通っていました。当時は、最終的な課題である企画書で採用されたものの、出版までのコンサルティング料が当時の自分には厳しくて断念した過去があります。このセミナーは出版社と手を組み、出版に至るプロセスが確立しているため、自分の本を出せるチャンスに恵まれやすい。改めて挑戦し、自分の書籍を出版したいと思っています。
ライターにオススメしたい著書
女性のコミュニケーション術の描き方がとても面白いと思います。女性の汚いところなどを赤裸々に描く観察眼や、物事をものすごく斜めから見る独特の発想に圧倒されて、自分の人生はなんて普通なんだ……と思ってしまいます。 |
撮影協力:BOOK LAB TOKYO
撮影:@miya___miya
五十嵐綾子
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