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「大好きな旅をしながら仕事をしたい」
旅やワークスタイルの分野を中心に執筆業を営みながら、毎月10日以上は旅をしているという松田然(もゆる)さん。好きなことを仕事にする今のワークスタイルを確立するまでに至った具体的なエピソードや、ライターに必須の仕事スキル、仕事と家庭のバランスなどプライベートなことまで幅広く伺ってきました。
【ライター松田然(まつだ・もゆる)】 プロフィール:合同会社スゴモン代表、フリーランス向けメディア「SoloPro」編集長。自転車旅ライターとしても活躍し、仕事をしながら47都道府県すべてを自転車で走破するなど、旅をしながら仕事するライフスタイルを確立している。40歳までにトライアスロンのアイアンマン完走が目標。フリーランス向けに「働き方デザイン」コーチング・セッションも提供している。 |
「がむしゃらに働いたから今がある」会社員時代に培った基礎力が支える自分らしい働き方
―キャリアの始まりは求人広告会社で社内ライターをしていたそうですが、ライターになったきっかけは何だったのでしょうか?
転職活動していたときは、ライターを仕事にするとはまったく考えていませんでしたね。最初は営業職を希望して活動していたので、勤めた会社でもライターは意識していませんでした。
ただ、営業として面接した後に社内で履歴書が回ったようで、会社側から「制作部を受けてみない?」と言われたんです。転職活動中に、次第に「営業で必要な交渉事は得意ではないのかな」と感じるようになっていたこともあり、また「そういえばSNSやブログで発信することも好きだし、やってみようかな」と思ったのがきっかけですね。
ライターとしての仕事がどんなものかもわからず、「とりあえずは未経験からこのポジションでがんばってみよう」と思ってやり始めたのですが、やってみたらガチッとはまったんです。
広告を作れば作るほど制作スキルが上達する感覚を味わうことができて、ライターを始めて3ヶ月目には社内の広告コンテストで、いきなり入選してしまったんです。そこで「自分はライターが向いているかもしれない」と感じるようになりました。
―社内ライター時代はどんなお仕事をされていたのでしょうか。
求人広告のライターとして、さまざまな企業に「どういう人を採用したいですか」「御社の魅力は何ですか」「採用課題は何ですか」といったことを取材して記事にしていました。1年で200~300社、1000人くらい取材することもありましたね。
―かなりライティングスキルがつきそうですね。
当時はがむしゃらにやっているうちに、執筆力やインタビュースキルがついたといった感じでしたね。またこの頃は、先ほども言った社内のコンテストで表彰されることや、クライアントから名前で仕事のご指名を受けることをモチベーションに、プライベートは考えず仕事だけに打ち込んでいました。
今でこそ、自分らしい生き方をすることが僕のモチベーションの源泉ですが、当時は少しでも成長して評価されたいという承認欲求が自分を突き動かしていたかもしれません。
あの頃の”仕事だけ”人間から、現在は旅をしながら生活している僕の働き方に共感して、ライターの仕事を始めたいと相談してくれる方も多くいるのですが、やはり何をするにも基礎は大切だと思います。
「自分はライターがやりたいし、自分にはライターが向いている」と思ったら、無心にがんばったり。「この案件、やりたくないな」と感じるものもあるかもしれませんが、えり好みせずに、力をつける時期もあった方がいい。「基礎」があるからこそ、仕事のステージが上がり自分らしいことができると僕は考えていますね。
―具体的に、ライター駆け出し時にどのようなスキルが身についたと思いますか?
インタビュースキルは大きく伸びたと思います。当時は「求人広告を介して幸せなマッチングをしたい」ということを考えて仕事をしていましたね。その企業の魅力を引き出すのが、ライターの腕の見せ所でしたが、その魅力が誰に響くのかまで常に意識していました。
何も考えずに取材しても当たり障りのない回答しか得られません。ターゲットとなる読者の身になって気になることを代わりに聞くということを大切にしていましたね。
営業なしでライターの仕事を獲得する方法
―社内ライターをやめてフリーランスになったきっかけは何だったのでしょう?
「挑戦する人を増やすために何かがしたい」と思ったことがきっかけですね。僕は求人広告ライターとして、いわば転職のお手伝いをしていたわけですが、当時はリーマンショックの影響で経済が沈んでいる時代で、「この環境から逃げたい」というマイナスの感情から転職を希望する方が多かったんです。それってとても残念なことだと思ったんですね。
そこで「挑戦する人たちのネットワークを作りたい」と考え、会社を辞め「ゴールレシピ(通称:ゴルピ)という「ゴールを見つけるためのソーシャルメディア」を事業として立ち上げました。
―ライターとしてフリーランスになったわけではなかったんですね。
そうなんです。でもしばらくすると、いろいろな壁にぶち当たりましたね。エンジニアやデザイナーの採用、サービス立ち上げまでの収益の確保、さらには新しくメディアを作らなくても、Facebookなど既存のメディアで挑戦する人たちのネットワークを作ればいいのではとまで思ってしまい、サービスの開発が進まなくなってしまいました。
その頃、日々暮らせるだけのお金は受託のフリーランスとして稼いでいたのですが、食べるために働くことが目的になってしまい、当初あった「挑戦する人を増やしたい」という想いからかけ離れてしまったとも感じていたんです。そこで、初心に戻り、自分もライターとして復帰しながら、まずは周りのライターが自分らしい挑戦ができるような環境を作ろうと思い、ライティングカンパニー「スゴモン」を立ち上げました。
―フリーライターとして復活してからは、どのように仕事を獲得していったのですか?
実はフリーになってから6年間、営業はしていないんです。ちなみにスゴモンを創業してしばらくは、今の自分の得意分野である旅やワークスタイルに関する記事の実績はゼロでした。
それでも「旅が好きです」「旅をしながら働いています」とブログやSNSで発信していると、そういう分野の仕事が来るようになったんですね。また、得意分野で結果を残せば、継続して仕事をもらえます。そういう良い流れを作れたのもよかったと思いますね。
ブレイクスルーとなったのは、ライターとしての売り上げを公表したことかもしれません。東京から日本の最北端である北海道の宗谷岬まで自転車で1ヵ月旅をしたとき、ライターのチャレンジャーを増やしたという思いで売り上げを公表しました。
旅をしても稼げることを証明できれば、「やってみようかな」と考える人も増えると思ったんです。そのときの売り上げは87万円。そのことを発信したら「おもしろい!」という反応をいただいて、執筆の依頼を受けたり、僕自身が取材を受けたりしました。
―松田さんのように「旅分野にしぼって執筆したい」または「インタビューを中心にしてライティングをしたい」と思っているのに、実際はできていないという人はたくさんいると思います。そういう人に足りないのはやはり発信力でしょうか?
考えられる原因は3つあります。
1.自分の『好き』を発信していない、そもそも自分の『好き』がわかっていない
2.スキルが追いついていない
3.仕事を断る勇気がない
のいずれかだと思いますね。
1については「私はこれが好きです」「これができます」としっかり発信していれば、あとから仕事がついてくるのがライターの仕事のいいところだと僕は思っています。2のスキルについては、その好きな分野でがむしゃらに頑張れば時間の経過とともに付いていきます。
3の仕事を断る勇気については、話すと長くなりますが(笑)、本当に自分がやりたいことは何かを常に追求し、ライターとしてのステージが上がったら、それ以外のことにNoと言える勇気を持つことが大切です。
―この3つの軸がしっかりしているから、松田さんは本当に自分がやりたいことに100%力を入れられるんですね。でも、一つ質問がわきました。既婚者である松田さんですが、月に10日以上旅で家を空けているとなると、パートナーの理解も必要になりますよね。
大切なのはお互いの自立性だと思います。結婚する前、妻は「家庭に入りたい」と言っていたんですね。でもそれは心からそう願っていた訳ではないことを感じていました。
それなのに僕ばかり好きなことをして生きていては、いつか心の距離感が生まれてしまうだろうと思ったんです。だから「自身が本当に好きだなと思える活動をお互いがしていけるパートナーでいたい」と伝えました。
最初はケンカすることもありましたが、今はお互いの自分らしい生き方がわかり、理解しあえています。妻も旅が好きなので、一緒に旅に出ることもよくあるんですよ。
―それぞれが「好きなことをして生きていく」ことを理解しあえているのは素敵ですね。
個人の主体性や自立性がないと、相互依存や協力ってできないと思うんです。自立していないまま相互依存しようとするとぎくしゃくしてしまいます。お互いが自立しているからこそ、助け合うときには助け合えると考えていますよ。
「好きなこと」「できること」「貢献できること」を軸にした働き方
―現在、ライターだけでなく、メディア「SoloPro」の編集長、合同会社スゴモン代表、働き方デザインコーチなど、さまざまなお仕事をされていますね。
「好きなこと」「できること」「貢献できること」の3つを軸に働いています。僕の仕事の土台であるライターの仕事は「好き」だし、経験も長く得意としていて「できる」こと、また世の中に「貢献」できる面もあります。このライターの仕事をベースとして、現在はさらに「貢献できる」ことを増やしていっているイメージです。
たとえばフリーランスのライフスタイルを良くするメディア「SoloPro(ソロのプロフェッショナルの略)」の編集長については、「編集長がやりたい!」と思って始めたわけではないんです。
始まりはライターとしての活動なんですよ。ライターとして受託で仕事を請けると、どうしてもクライアントの商品やサービスを売ったり認知させたりすることに重点を置く必要がありますよね。
ですから「こういう働き方、いいよね」という自分の考えを届けるのは難しい。それに、フリーのライターさんの働き方の相談によく乗っていたのですが共通する課題も多く、それなら自らメディアを立ち上げて情報発信しよう、ということから「SoloPro」を立ち上げたんです。
働き方デザインコーチについても、ライターとしてできること+αで貢献できることはないかなと思って始めました。ライターの仕事の本質を突き詰めて考えると、「その記事を読んで人が動くこと」。究極的には「その人が記事を読んで幸せになること」が目標かと思います。ただしメディアの影響力だけでは限界がありますよね。そこで、よりリアルな場で価値を提供できないかと考え、コーチングを始めたんです。
時代の変化に合わせてチャレンジできる「ワクワク感」を大切にしよう
―最後に、今後どんな生き方や働き方をしていきたいか、ビジョンを教えてください。
コーチングをはじめてから感情面をすごい意識するようになって、今後も達成感、ワクワク感を持てる生き方をしていきたいと思っています。正直、5年後、10年後もワクワクしていればライターをしていなくてもいいや、と思うところもあるんです。
たとえば将来、ライティングの仕事は全部AIがやってしまうようになるかもしれません。そうしたらライターとしての仕事はなくなってしまうかもしれませんよね。ただ、それを悲観するのではなく、本来、本当にやりたかったことに注力するチャンスと捉えれば、可能性は大きく広がります。
ちなみに自分はライター業は好きなのですが、ワクワクできない業務というのもあります。そういった分野はシステム化したり、それが得意なライターに依頼していますし、今後はますますやりたいことにフォーカスしていくと思います。
それに数年後には今は考えられないような新しい仕事が生まれているかもしれません。そのときも「ワクワク感」を大切にしておけば、時代に合わせてさまざまなことにチャレンジできると思っています。
ライターにオススメしたい著書
『より少なく、しかしより良く』を追及する生き方がエッセンシャル思考。締切に追われ、睡眠時間や遊ぶ時間を削りながら生きている人も少なくないです。しかし、本質に集中することで、それは解決できます。「自分の仕事や生き方を編集する」、「重要なことをやるために本質的でない依頼を断る」、「完璧を目指すよりまず終わらせる」といった、ライターの働き方のヒントとなる視点が学べる本だと思います。 |
撮影:@miya___miya
西東美智子
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- “旅しながら働く”ライター松田然さんが教える自分らしい働き方に必要な3つの軸 - 2017/04/18