ビジネス系の記事を執筆する傍ら、落語家の女将も務め、江戸の時代考証や創作落語なども行うライターの櫻庭さん

ヒューマンドキュメンタリーや創作落語など、物語のあるドラマチックなライティングを得意とする桜庭由紀子さん。「人」に焦点を当てた取材をするために心がけていることや、ライティングの原点となった落語への想いについて伺いました。

【ライター桜庭由紀子】
プロフィール:印刷会社でデザイナー兼ライターとして勤務した後、フリーライターに。ビジネス系の記事を執筆する傍ら、噺家 三遊亭楽松の女将も務め、江戸の時代考証や創作落語なども行う。

記事も積もれば仕事となる!?ブログと口コミで依頼が舞い込んだ

―ライターとして独立するまでのご経歴を教えてください。

独立するまでは、長野の印刷会社に勤めていました。小さな会社だったので職種の概念がなく、企画からDTPデザイン、ライティング、写真撮影まで何でもやっていましたね。当時は社内報を任されていたのですが、記事を書いていくうちにクライアントや取材先の経営者の方から「またお願いします」と依頼されるようになっていたんです。様々な業務の中でもライティングに特にやりがいを感じていたので、ライターとしてやっていきたいという思いが強まっていきました。ライターとしてやっていくのなら、よりチャンスが多い東京で仕事をしたいと思い、フリーランスになった当初は長野と東京を行き来しながら仕事していたんですよ。

―独立されてから、どのようにお仕事を獲得されたのでしょうか?

ブログ経由でお仕事をいただいていました。実は会社員時代からブログをやっていて、「集客」というテーマで、サイトのアクセスを上げる文章の書き方を書いたり、時には恋愛指南の記事など、色々なテーマで書き綴っていたんです。気づけばブログのアクセスが伸びていて、そこからお仕事に繋がっていったんです。当時はメールを開くと常にご依頼が来ているような状態でしたね。

また、会社員時代に取材した長野の蔵元さんなどから、私の評判が口コミで広がり、別のお仕事に繋がっていったこともありました。お仕事の獲得はブログが半分、紹介が半分、という感じでした。

IMG_4

その人にしかないドラマを引き出す方法

―現在のお仕事内容を教えてください。

会社員時代に経営者取材が多かったので、現在一番多いのはビジネス系の記事やヒューマンドキュメンタリーですね。日本の経済やビジネスに関連した人物取材が得意で、企業の社長さんや職人さんなどにお話を伺う機会が多いです。媒体は雑誌とウェブが半々くらいですね。

また最近はブックライティングのお仕事も取り組んでいます。取材でお会いしたある社長さんのお話に感銘を受けて、その方が体験してきたことをまとめた書籍を企画しているところなんです。

―人物取材をする上で、意識していることは何でしょうか?

取材相手に興味を持つことです。どんな経営者でも、その事業をされているということは、生きていく上でそのビジネスを選んだその人なりの理由があります。また、その商売を成功に導いたその人自身の魅力もどこかにあるはずです。相手の人となりが浮かび上がってくるような経営理念や、その人の魅力の源泉など、人物にフォーカスした取材をするよう心がけています。

そのために、記事に書く・書かないは別にして、プライベートのことや趣味、育ってきた環境なども聞くようにしています。経営者さんの部屋にゴルフバッグが置かれていたら、「あのゴルフバッグ、クラシックで素敵ですね」と話題を振ってみたり。相手の人となりがわかるだけでなく、和やかな雰囲気が生まれ、話を引き出しやすい環境をつくることもできます。こうした場で色々な話に対応できるように、雑学力は必要ですね。私は日経新聞、毎日新聞、朝日新聞のネットニュースはよく見るようにしています。

IMG_3

―桜庭さんの文章の特徴について教えてください。

ドラマチックな文章に仕上げることが得意です。もともと高校生くらいの頃から落語に興味があり、物語仕立てに文章を書くことが好きなんです。

例えば、ある社長さんの経営理念について伺った時、「商売はお互い様」という言葉が出てきました。これはその方のご両親の言葉だったのですが、この「お互い様」というワードから波及させるように記事を構成したところ、その社長さんは感激してくれました。2000字や3000字の記事の中でも「この一言が言いたかったんだな!」と読者に思ってもらえるような、人の心に響く印象的な言葉やセンテンスなどは盛り込むようにしていますね。

ただ、ドラマチックになりすぎないように注意しています。夜に原稿を書くとより感情的になってしまいがちなので、できるだけ午前中にプロットを作り、午後から夕方に向けて書き、ひと呼吸置いて推敲してから納品するようにしています。夜のテンションは怖いんです(笑)。

落語の仕事も引き寄せた!ブログは世界と繋がるきっかけ

―創作落語や、江戸の時代考証のお仕事もされているようですね。

実は、寄席を観に行ったことがきっかけなんです。先ほどもお話した通り、昔から落語が好きでした。読書をしたり、ラジオドラマを聞いて情景を想像したり、妄想することが好きだったんですね。フリーになって東京に出てきてので、これは寄席を観に行かなくてはと思って。それで観たら、もう感動してしまって、その気持ちをブログに綴ったんです。

そうしたら、私のブログをたまたま噺家さんが見つけて読んでいただきまして、わざわざご連絡いただいたんです。しかも、そのご縁で落語のことを一から教えていただけることになったんです!これが落語関連のお仕事をいただくきっかけとなりました。取材ライティングも落語のお仕事も、依頼のきっかけはブログだったので、皆さんブログは書いた方が良いと思いますよ。

経営者さんは落語や歌舞伎などが好きな方は多いので、取材時に共通の話題になることもありますね。また落語はライティングに役立つこともあるんです。噺家は同じ言葉を二度使わないよう工夫しています。例えば「腕から切るか、背中(せな)から切るか、首から切るか」という台詞なら、「腕から落とすか、背中(せな)から切るか、首からはねるか」などと言い換えるんです。落語に触れて、こうした表現の仕方を意識するようになりました。

IMG_2

―江戸文化などについて書く際、気を付けていることはありますか?

個人的に江戸時代の研究は続けていますね。江戸時代に書かれた文献や、江戸文化の論文などを図書館に行って読んだりしています。江戸時代は歴史的に見るとつい最近なのに、日本人の現在の文化の基礎があり、良い意味で信仰深く、そして人間くささもある……一言で語り尽くせないほど、とても魅力的な時代なんです。

また、噺家や伝統芸能の職人さんに会いに行く時などは着物を着るようにしていますね。自分がどんなことに関心がある人間なのか、わかってもらいやすくなり、相手の反応も違うんですよ。

―最後に、桜庭さんの今後の目標を教えてください。

経営者の方や、職人さん、芸人さんなどの取材をもっと増やしていきたいです。その道のプロの声を届けられる記事をたくさん書いていきたいと考えています。

また、現在はビジネス系の記事の方が書く機会は多いのですが、江戸の時代考証のお仕事なら、例え原稿料が安くても是非書かせていただきたいですね。まだ企画の段階ですが、江戸や落語などをテーマにした自著の出版も考えているんですよ。江戸時代や和の文化など、歴史に興味を持っていただけるような文章を書き続けていきたいと思います。

ライターにオススメしたい著書

『夢をかなえるゾウ』水野敬也
昔、とにかく成功したい! 名を上げたい! と思っていた時期がありましたが、この本を読んで考え方が変わり、肩の力が抜けました。自分ができること・やるべきことをコツコツやっていけば道は拓けるという、成功法則が学べます。
『都鄙問答』石田梅岩
江戸時代の心学者・石田梅岩が書いた『石田問答』の現代語訳です。「お金を稼ぐことは悪いことではない。自分の持っている力でどんどん稼ごう。それが商人の持って生まれた使命なのだから」という、彼の商売に対する考え方が書かれています。この思想は、「売り手良し、買い手良し、世間良し」の「三方良し」という考え方の起源になりました。フリーランスで商売をしているライターさんにおすすめの思想です。

撮影協力:BOOK LAB TOKYO
撮影:@miya___miya