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犬をはじめ、様々なペット関連の編集・ライティングに携わる金子志緒さん。専門性の高い「特化型ライター」としてやっていく上で求められる情報の扱い方、原動力となったペットへの想いなどについてお話を伺いました。

【ライター金子志緒】
プロフィール:甲斐犬のジュウザと暮らすライター・編集者。犬と猫を中心にペット関連の雑誌、書籍、Webメディアの制作に携わる。飼い主と動物たちの暮らしに役立つしつけや防災の記事から、ウンチングスタイルの研究など雑学の記事まで作成。愛玩動物飼養管理 士1級の他、防災士やいけばな草月流師範の資格も持つ。

「好き」を追求し、理想の仕事を掴んだ

―最初はレコード会社に勤められていたようですが、どのようにペット関連のお仕事に転身されたのでしょうか?

高校生の頃から音楽にハマり、短大卒業後はレコード会社に入社しました。昔から作文など国語が得意だったので、音楽関係で自分に何ができるかと考え、音楽系のフリーペーパーや、アーティストやミュージシャンのファンクラブ会報誌の制作を担当しました。ただ、当時は編集業務だけでなく、広報支援やライブの物販など様々な業務があり、おもしろかったものの大変なこともありました。

そんな忙しい毎日を送っていた時、一人暮らしをする自分のパートナーになってくれる犬を迎えたいと思うようになり、「忠犬」という性格に惹かれて甲斐犬のジュウザを迎えることに決めました。犬は小学生の頃に実家で雑種を飼った経験しかなかったのですが、ジュウザと暮らすうちに犬の奥深さに魅了され、もっと知りたいと思うようになりました。

その後、犬のことを学べて、編集経験も活かせるペット雑誌の出版社で働くことにしたんです。レコード会社に入った時もそうですが、「好きなことを仕事にしたい」という気持ちが強いんだと思います。

―その後、独立されたのはなぜでしょうか?

その出版社にアルバイトとして3年ほど勤めた頃、これから先を考えてどうしようか迷っていたら、編集長に「このままフリーになったら?」と勧められ、雑誌や書籍の仕事をフリーランスとして続けることになりました。フリーになった実感はほとんどありませんでしたね(笑)。そうしてペット関連の媒体に関わり続けるうち、他媒体からのご依頼もいただくようになり、今に至ります。

ペットを起点に幅広いジャンルを手がける

―犬のことはどのように勉強されたのでしょうか?

仕事では獣医師やしつけインストラクター、研究者など、動物関連の専門職の方々を取材する機会が多いんです。あとはペットの飼い主さん。一緒に暮らしている動物に関しては、エキスパートのような方もいるんですよ。

企画を立てて質問を考えて実際に取材をし、それを記事にまとめる作業のすべてがとても勉強になっていて、仕事を通じて犬のことをどんどん知ることができました。今持っている愛玩動物飼養管理士の資格も、実は犬・猫関連の部分は勉強しなくても満点でした(笑)。やはり「好き」という気持ちが原動力になったのだと思います。

―ペット関連のお仕事への入り口は犬でしたが、現在は犬だけでなく様々なペットの情報に対応できるのでしょうか?

幅広いペット情報に対応できます。というのも、犬で勉強したことが猫など別の動物に役立つこともあるんです。例えば、快不快や損得を考えて行動することはどんな生き物でも同じです。また、犬の利き手の取材を通して魚やヘビの利き手までわかったこともありました。犬で勉強したことが他の生き物にも応用できるんですよ。

ただ、もちろん全然違うところもありますよ。例えば犬は社会性がありますが、ウサギは単独行動を好みます。「ウサギはひとりぼっちにしたらダメ」というのは都市伝説なんですよ(笑)。似ているけれど違うという部分もとても勉強になりますね。

―ペット関連の最新情報はどのように取得されていますか?

セミナーやシンポジウムに参加したり、専門書を読んだり、ペット関連のメルマガをチェックしたりと、色々な方法で最新情報を調べています。また、科学情報誌やニュースに掲載されている最新の研究発表も見るようにしています。

―ペット関連の取材を多く経験されていますが、特に気を付けていることはありますか?

飼い主さんとペットに取材を楽しんでもらえるようにすることです。実際の取材現場では、撮影などに慣れない犬は飼い主さんの予想と違うことをすることもあります。吠え続けたり、落ち着けなかったり。

なので、現場ではまず動物の性格を確認するようにしています。飼い主さんも気付いていない、来訪者に対する態度を観察して判断します。犬の様子を見て、なかなか心を許してくれそうになければ、テリトリーから離れるためにしばらく外に出てみたり、一緒にお散歩して自分に慣れてもらったり。そんな時、申し訳なさそうにする飼い主さんもいますが、「全然気にしないでください!」と言っています。私も初対面の人に会う時は緊張しますから、動物も同じだと思っているんですよ(笑)。現場で人もペットも気持ちよく取材を終えられることを一番大切にしています。

―ペットのほか、防災情報にも詳しいようですね?

私はもともと地震がとても怖くて、一人暮らしを始める前から防災そのものに関心がありました。実は東日本大震災が起こる前から愛犬の災害対策を始めていて、「ペットと防災」をテーマにした取材を行ったんです。その取材をきっかけにペット同伴での避難の大変さを知り、自分とジュウザのことだけでなく、人とペット全体の安全を考えた、もっと広い考えを持たなければと思うようになりました。その後、防災士の資格を取り、人とペットの備えや避難についての情報を発信するようになりました。

防災のほか、ペットに優しい床材などインテリア情報や、飼い主さんの性格判断表の作成といった暮らし全般の記事も執筆しています。ペットというテーマは動物の生態やトレーニングなどの情報だけだと思われがちなのですが、ペットを起点にジャンルの幅を広げていきたいと考えています。

正しい情報を責任を持って発信したい

動物ライター・金子志織さん

―仕事をする上でのポリシーは何でしょうか?

確実な情報を出すことです。専門性が高い記事の場合は、編集部と相談して監修者を立てることもあります。監修者が入るだけで記事の深みが増すこともありますから。監修は、取材で知り合った専門家のほか、紹介や論文を辿って、そのテーマに詳しい方を探すようにしています。ウェブなどでは特にペットに関する誤った情報が広まってしまいがちですが、正確な情報を発信するように心がけています。

―最後に、金子さんの今後の目標を教えてください。

得意分野のペットや防災などの情報について、より責任を持って発信できるように資格を取りたいと思います。今の知識だけでも書けることはありますが、同じ知識でも資格の有無で説得力に違いが出てくると考えています。今、動物関連の資格取得にチャレンジしようと勉強中なんですよ。あとはインタビューやレポートの執筆も始めました。ライターとしての仕事の幅ももっと広げていきたいですね。

ライターにオススメしたい著書

『文章生活20年。現役ライターが初めて教える文章のコツ講座—NPO法人日本独立作家同盟 第二回セミナー〈古田靖 講演録〉』古田靖
「取材する力」を上げる方法についての講演をまとめた本です。事前に調べた情報のまとめ方や、取材の流れの作り方などが丁寧に解説されています。実用書のような構成ではなく60ページほどの冊子ですが、読み応えのある内容でした。キーワードは「取材とは仕入れである」。記事作成には取材、知識、経験が大切だと思いました。

撮影協力:フラワーショップChiChi
撮影:@miya___miya

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五十嵐綾子

(株)宣伝会議主催「編集・ライター養成講座」を受講し、卒業制作で最優秀賞を受賞したことをきっかけに編集・ライティングの道へ。編集プロダクションにて街ネタ、グルメ、エンタメなど幅広いジャンルの情報誌編集を経てフリーライターに。現在は旅行、イベント・展覧会、女性向け記事などを中心に執筆中。大学は史学科を卒業し、各地の歴史・文化などに目がない世界史系歴女。世界遺産検定1級。